全てのSはPである、かつ或るSはPではない


コンビニでこの看板を見るたびに、何かが引っかかりはしませんか?


「すべての銀行カードがご利用になれます。一部の金融機関は除く」
一部の金融機関を除くなら、すべての銀行カードが云々というのは矛盾だ――
そんな馬鹿げた疑問符を、ふと感じてしまうからなのでしょう。


無論、これは単純な意味合いでの矛盾を孕んだ文章、というわけではありません。
寧ろ、言い回しそれ自体に巧妙な罠を仕掛けることで、矛盾でありながら矛盾でないような
感触のうちに、言いたいことを上手く乗っけてしまった好例であるといえます。


主語を良く見てみましょう。
最初の文章では「銀行カード」と言っているものを、後ろの文章では「金融機関」と
言い換えているわけです。ここで実際指し示したい対象は一緒のはずです。


では何故、先と後で同じ言葉を使わないのか?


それは当然、そのまま同じ言葉を使えば矛盾があからさまになってしまうからですね。
本来なら双方ともどちらかの語彙に統一すべきところを、敢て同じ言葉で統一せずに
ずらしています。この操作によって、再帰的に矛盾を避けられない場合でも、
矛盾を迂回しながら(或いは厳密には矛盾であるにも関わらず)
「意味(?)」だけ「感覚的」に伝えてしまうという芸当を実現することが出来ます。

全てのSはPである、かつ或るSはPではない

この文章は単純に矛盾です。

全てのSはPである、かつ或るS'はPではない

これは矛盾ではありませんが、S<>S'とすれば、
別に何を言っていることにもならない文章です。


しかし、S<>S'でありながら、
「まるでS=S'であるかのように見せかける」ことが出来れば――


言葉遊びの果てに有るかもしれない希望。
言うまでもなく、それはパンドラの箱に残された代物以外の何物でもありえませんが。